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Paper Quilt

見て、読んで、耳を澄ます絵画

「絵と詩とを合わせて一つの作品なんです」

と山下哲司は語ります。

なるほど、絵を見た後で詩の言葉を読むと

頭の中で何かがゆるやかに動き始める気がしてきます。

静止していたはずの絵の中から音と光が流れ出す。

絵と詩が奏でるライブの始まりです。

私達はつい緻密なペーパーキルトに目を奪われがちですが、

この、絵と詩の共演に「耳を澄ます」ことこそ、

山下作品の醍醐味なのかもしれません。

緻密な紙片が奏でる色彩のハーモニー
「ペーパーキルト」という名の新しい貼り絵


 山下哲司の作品は、コラージュの可能性を発展させ、重層化する手法によって織りなされています。多様なフォルムの切片は、視覚の中で心地よく混ざり合い、鑑賞する者の感覚を未知の体験に誘います。一見するとCGや絵の具で描いたような印象を受けますが、その細部はミリ単位の紙を切って貼り合わせる事によって構成されており、まさに手業であることを確認できます。オランダで「ペーパーキルト」とまで表現された他に類を見ないそのユニークな手法は個展・グループ展を通じ幾度となく国内外にて発表され現在に至っています。デザイン的でもあり、絵画的でもあるペーパーキルトは「今、そこにある色」というアフリカで得たインスピレーションの元に生まれた、全く新しい分野の絵画です。

陰に息づく「もののあはれ」という日本美


 ペーパーキルトは主に洋紙によってその形を成しています。洋紙は色のメリハリがはっきりとしているため、作品からは華美な印象が強く残ります。その一方で、紙という素材は種類を問わず、光によって、また時の流れとともにその趣を徐々に変えていく性質を持っています。その変化はまさに大河の流れの如く緩やかで、かつ尊いものです。生きとし生けるもの全てがその命を謳歌するように、ペーパーキルトも観る者と共に歳を重ね、熟成されていきます。永遠という時の流れに自らを浮かべ、色相を変えていく様は、日本古来からの「もののあはれ=無常」という移り変わりを美と捉えた感覚に通じています。